令和6年度の研修報告
東京支部2024年第1回研修会
2024年6月16日(日)14:00〜16:00
講師 飯田俊穂先生(安曇野内科ストレスケアクリニック)
タイトル メンタルヘルスに役立つ脳科学及び心理学的アプローチの紹介及び事例を用いたアセスメント研修
日常生活における子どもの困り感に向き合う時、行動面や学習面、体調、発達特性やメンタルヘルスも含めたアセスメントから手立て(指導や支援)を考えることが重要ですが、最近は脳科学からの解説について話題になることが多く、ブームのような流れを感じる中、飯田俊穂先生のお話を大変興味深く聞かせていただきました。
「脳科学から分かってきたこと」と「脳科学で否定されている内容」からは、日頃メディア等を通して受け取る情報を簡単に信じ込むリスクについて考えさせられるのと同時に、正しい情報を得ることの重要性について考える機会にもなりました。
「脳科学的に様々な力を高めるためのアプローチ法」では、≪複数の選択肢から選ばせるようにするとやる気が高まる≫≪記憶力を高めるには学習する場所を変える、運動する、水を飲む≫≪セルフコントロール力を高めるには、ごっこ遊び、音楽に合わせて体を動かす、ボランティアや他者を助ける活動などで思いやりを持つ≫ことが有効であると教えていただきました。また個人的には「子どもに関わるテクニック」として取り上げられていた【コネクト&リダイレクト】の考えが最も印象に残りました。【コネクト】は、子供の感情が高ぶっているときは気持ちを理解したことを行動や言葉で伝え、心と心をつなげていくことが大切であるということ、【リダイレクト】は、子どもが落ち着いた状態になってから感情が高ぶっていたときのことを思い出し、やるべきだったことややってはいけなかったことなどを説明するというものでした。具体的には、抱っこしたり背中をなでたりする行為、「嫌だったんだね」など子どもの気持ちを言葉にしてあげること、つまり落ち着いた状態で説明しサポートをすることが「成長のための重要なプロセス」であり、信頼関係を作ることができるようになるということでした。
また、小児科医の成田奈緒子先生が確立された脳育ての方法「ペアレンティング・トレーニング」(子どもが自ら考えて行動できるように親が行動や意識改革をして子どもの脳にいい刺激を与えていく方法)もご紹介いただきました。良い脳を育てる6つのポイント、@ブレない生活習慣A調和のとれたコミュニケーションB互いを尊重して協力し合うC怒りやストレスへの適切な対処法を共有するDポジティブな家庭の雰囲気を作るE親がブレない軸を持つというものでしたが、『ブレない、コミュニケーション、尊重する、共有する、ポジティブ』などの重要なキーワードを再認識し、教育・心理・福祉等の専門職として子どもだけでなく親(保護者)と向き合うとき、強く意識していきたいと思いました。
最後の「アセスメント研修」の目的は、生物心理社会モデルの視点とウェルビーイングの考え方を持ち、「自分の見立てに固執せず、みんなの意見を取り入れて柔軟なアセスメントを行えるようになること」を目指すもので、多職種連携が求められる中、よい連携がクライエントの支援だけでなく、専門職であるわれわれも成長することにつながるのだと教えていただいたような気がしています。ありきたりの言葉かもしれませんが、明日からの支援にいかしていきたいと考えています。飯田先生、どうもありがとうございました。
東京支部2024年第2回研修会
日時:2024年12月1日(日)14:00〜16:00 ※入室は13:30ごろから可能です。
講師:藤川浩(ふじかわ ひろし)先生(駿河台大学心理学部教授)
演題:「逆境に取り残される子どもたち 〜非行少年の立ち直りに携わった元家裁調査官の話〜」
虐待、貧困、親の養育力不足、離婚やリストラなど家庭環境の変化など、想像できないほど劣悪な環境に置かれている子どもたち、また学校ではいじめや不登校、学習困難などさまざまな課題を抱えている子どもたちがいます。コロナ禍において生活様式が大きく変化しました。希薄な人間関係からは安心感を得ることができず、SNSやYouTubeに出会いや楽しさを求め、さまざまな経験の機会を失い、そして自尊感情が育たないまま(自信を持てないまま)何とか生きている子どもたちもいます。多様性や人権が大事だと言われながらも、何のために生きるのか、将来どころか今をどう生きていけばよいのか(衣食住など安心して生活することができない)、子どもたちの逃げ場のない不安・不満・怒りなど追い詰められた感情が彼らを非行に走らせているのではないか。窃盗・暴力・器物損壊・詐欺・・非行少年は自分の犯した行為が犯罪だと理解しているのか、理解する機会さえなかったのか、非行少年の背景を知り、どのような支援があれば予防できるのかを考えることが重要であると、今回の研修会で改めて考えることが出来ました。また、非行少年の更生について学ぶことで、彼らが立ち直ることへの支援を社会全体が意識することが重要なのだと感じました。
藤川先生から、基本は「家庭の困難さ」というお話がありました。とはいえ、困難あるいは過酷な環境に置かれた子どもにとって、逃げ出したい思いを抱えていても逃げていくところがありません。家庭のあたたかさを知らない子どもにとっては唯一無二の親、とんでもない親でも暴力をふるう親でも一緒にいたいと考えるのかもしれないと思いました。そういう意味では、家庭への支援が必要で、福祉サービスにつなぐことや情報提供など、学校や家庭、地域の関係機関が連携することが重要であると思われます。学校現場でも多職種連携が進められていますが、タイミングを逃さず支援することとニーズに合った支援方法を考えることが求められている事を理解しました。支援の最前線にいらした藤川先生が「いつも非行少年の心がとけること、どうやったら言葉が届くのか、考え続けてきた」というお話が本当に心に響きました。非行少年と一口に言っても、非行内容も背景も能力も特性もさまざまです。罪を償いながら生きていく一人一人の非行少年に合わせて言葉を選び、彼らが人生に希望を持つことができるように寄り添うことは、経験を重ねてもなお困難さを極める専門職といえるのではないかと考えながらずっと藤川先生のお話に聞き入っていました。やはり誰もができる仕事ではないと感じます。だからこそ、その周辺で仕事をしている専門職が連携して支援することが大事だのだと考えました。適材適所とは、できることを、できる時に、できる人がする、その重なりが非行少年を生まない世の中を作ることに貢献するのではないかと思います。
また、法務省の犯罪白書によると非行少年の多くが(少年院在籍者の約9割)小児逆境体験を有するという結果が出ているというお話があり、数字の大きさに大変驚きました。
小児逆境体験とは、@心理的虐待A身体的虐待B性的虐待C家族の薬物中毒D家族の精神疾患E母親又は義母への暴力F家族の犯罪行動ですが、そういった経験・環境が非行に影響していることが明らかであり、そのことからもトラウマインフォームド・ケアの大切さのお話がありました。主なトラウマ反応は、@身体症状A過度の緊張(過覚醒)B再体験C感情の麻痺(解離状態)D精神的混乱E喪失や体験の否定F過度の無力感G強い罪悪感H激しい怒りI著しい退行現象です。「少年が立ち直るための連携として、処罰より一緒にサポートすることが大切」「家庭支援に冷たい世の中だけど、困難家庭を支える社会のシステムを作ることが大切」とおっしゃった藤川先生のお言葉をしっかりと心にとめて、これからもSSWとして向き合っていきます。藤川先生、貴重なお話をありがとうございました。
(文責 宮下 佳子)
令和5年度の研修報告
○日時 2023年6月18日(日)14〜16時
○会場 Zoomを用いたオンライン研修(東京支部会員及び他支部希望者)
〇参加費 東京支部会員:無料 他支部会員:3000円 准学校心理士:無料
○講演 「新生徒指導提要が示すこれからの自殺予防の方向性」
○講師 新 井 肇先生(関西外国語大学外国語学部)
今回の研修会は2022年に改訂された「生徒指導提要」に関する研修でした。特に自殺予防の観点からお話しをいただくということで、これまでSCやSSWとして勤務した経験から非常に強く関心を持っていました。研修は、T今、学校に求められる自殺予防の方向性と課題、U自殺予防を進める上での前提となる理解、V児童生徒の自殺の危険にどう気づくか、W自殺の危険の高まった児童生徒にどう関わるか、X自殺予防教育の方向性と具体的展開、というお話の流れでしたが、とてもわかりやすく、データや具体例を挙げていただきながら進めていただき、どの話も印象的で、本当にたくさんのことを学ぶよい機会になったと感じています。また、専門職として「どう気づき、どう関わるのか」ということについて改めて考える機会になったとも思います。
1989年の「児童の権利に関する条約」で「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」が保障されていますが、自殺予防に取り組む留意点の中で、そのことを教職員が共通理解しておくことが一番に取り上げられていました。子どもたちが抱える多くの問題に専門職として向き合うとき、強く意識すべきことだと感じています。新井先生は、その上で《不登校児童生徒の教育機会の確保すること》、《幼児期の終わりまでに育ってほしい姿をイメージすること》、《社会的自立に向けた取り組みを意識すること》が大事で、特に社会的自立に関しては《適切に他者に依存すること=充実して生きるためのSOSをだせることが社会的自立といえる》とおっしゃっていました。また子どもだけでなく、大人もSOSを出す力を持つこと(抱え込まない)が大事で、校務分掌や校内での支援体制作り、専門職や関係機関との連携(チーム支援)を通して、安心できる学校環境、下地作りの指導、核となる授業(自殺予防)が求められているとのことでした。さらには、発達障害の子どもは「〜すべき思考」が強く、過大評価や過小評価につながりやすいことから自殺リスクが高いため、自殺予防につながる学校作りの視点として「自己有用感」を高めることが重要というお話も印象に残りました。《立派な話し上手になるよりよい聞き手になることが大事》《こちらが信頼してこそ相手の信頼を得ることができる》という新井先生の言葉も、専門職として心にとめて日々向き合っていきたいと考えているところです。
日本学校心理士会東京支部2023年第2回研修会(オンライン開催)
2023年12月3日(日)14:00〜16:00
講師 伊藤美奈子先生(奈良女子大学研究院生活環境科学系臨床心理学領域教授)
タイトル 学校におけるいじめについて〜現状と対応〜
令和4年度の不登校の児童生徒が約30万人(小中学生)と発表され、前年度に比べ約5万人増えたことは社会に大きな衝撃を与えました。学校現場でもこれまで以上に不登校対応が喫緊の課題と意識され、多様な学び学校(いわゆる不登校特例校)や適応指導教室、校内支援センター、フリースクール、子どもの居場所等が注目されるようになりました。
不登校のきっかけの一つとして取り上げられることの多い「いじめ」について伊藤先生の研修を受ける機会をいただき、とてもタイムリーな研修テーマであったと感じています。研修の内容は、いじめの現状と対応について奈良県で実施された「いじめ実態調査(2022年6月〜8月に奈良県の中高生を対象にグーグルアンケート機能で実施された被害と加害に関する実態調査)の結果をもとに、いじめ被害・加害の有無と気持ち、いじめに関する認識等について分析結果と結果からわかることについて、丁寧にご説明いただきました。興味深い内容に、メモを取る手も止まるほど(!)思わず聞き入ってしまいました。
いじめを相談しない子どもの比率の高さと相談しない理由は深く考えさせられるものでした。「恥ずかしい」「被害が悪化する=いじめ倍返し?」「ふつうに接してもらいたい」「誰かに言っても解決しない」「相談したくても聞いてもらえない」という項目のアンケート結果から、【被害を受けた子どもは悪化することを恐れ、相談しても解決しないと感じていること】【被害・加害の子どもどちらも「はずかしい」と感じていること】がわかりました。いじめられる子どもやいじめっ子と思われたくないということですが、それを乗り越えるためにも、SOSを出せる体制作りや環境整備が求められているというお話でした。
いじめの未然防止として<アセスメント><学級作り・人間関係作り><人権教育や道徳教育の充実>、いじめの早期発見として<教員の気づきと共有><相談しやすい環境作り><いじめ実態アンケート>、さらにいじめへの組織的対応として<組織的対応の重要性><いじめられた子・知らせてくれた子を守り通す><いじめた子どもへの支援><家庭への連絡>、最後にいじめ解消の要件として<いじめに係る行為が止んでいること(目安:少なくとも3ヵ月)><被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと>が大事であるとのことでしたが、<いじめた子どもへの支援>の必要性が強調されていたように思います。「いじめ基本方針」では被害者保護主義の傾向が強く、加害者への指導・支援が弱いことが課題であるとの指摘がされており、「生徒指導提要改訂版」では発達支持的生徒指導の観点から「すべての子どもがいじめをしない人に育つ」こと、すなわち被害者のみならず加害者の成長発達を支える視点も必要であることがわかる、とのことでした。
また、単なる実態調査でなくアンケートから救済につなぐことができるよう回答者が特定できるシステムにしてあったことも印象的でした。いじめられている子どもを救済する機会にするという伊藤先生の強い思いに触れ、深い感銘を受けました。研究者であると同時に心理の専門家として、常にできることを実践していらっしゃる姿勢から、将来に希望を持てる子どもたちを育てる大人の責任を改めてお示しいただいたように思います。私も強く意識して子どもたちに寄り添っていきたいと思います。(文責 事務局宮下佳子)
令和4年度の研修報告
2022年度第1回研修会
日時:2022年6月26日(日)14:00-16:00
テーマ:「情報モラルと教育」 〜AI時代とどのように向き合うのか〜
講師:久保田裕先生(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事)
講演の冒頭に自己紹介があり、久保田先生が大村はま先生の教え子であることに驚きました。ずいぶん昔ですが、大田区の教員対象の講演会で、大村先生のお話を聞いたことを思い出しました。今では当たり前のデジタル機器の使用はありませんでした。風呂敷一枚で、生徒を引きつける教材提示の方法を実際に見せていただきました。本日の久保田先生の最先端の情報のお話と、大村先生のアナログ的な授業との正反対に思えるお話が、どこかで繋がっている気がして不思議な感覚でした。大村先生が、自分の考えていることを正しく伝え、相手の言うことを聞くために国語教師になられたというエピソードが印象に残っています。携帯電話やPCがさほど発達していない時代に、生徒たちとコミュニケーションをとりながら、さまざまな経験を積んで、カリスマ教師になられたのだと思います。試行錯誤しながら、生徒に分かりやすく感動を与える授業を作り上げられたのでしょう。多分、風呂敷を使った授業を、他の人がやってもその時だけはうまくいくかもしれません。得た情報をうまく活用したことになりますが、そこで終わっては十分に活用したとは言えません。授業後に評価や分析を行うこと、他の資料や文献などから情報を取捨選択し、更なる実践を積み重ねて自分のオリジナリティを発揮してこそ活用したことになります。
久保田先生がおっしゃった情報が「カタチではなく内容」だとおっしゃったことに繋がる気がします。情報が創作物であると考えれば、先人たちの創造してきたことに敬意をはらい、自分の苦労を重ねて、新たに創造していくことが大切だと思いました。そして、テクノロジーと人間社会の在り方や情報についての知見を深めること、「情報」とは何かについて知ることの重要さを学ぶ機会でした。
久保田先生の講演会後、著書である「人生を棒に振るスマホ・ネットトラブル」を読みました。便利だけれど危険がいっぱいである事実を改めて知りました。子どもたちに接する仕事をしている私たち学校心理士は、情報モラルについてもっと深く考え、正しく子どもたちに伝えていかなければいけないと思いました。情報について考える貴重な機会をいただきました。
2022年度第2回研修会
2022年11月27日 「WISC-Xを通して考える知能検査とCHC理論」 坂本條樹先生
文責 山田睦子
最新版の知能検査WISC-XやCHC理論について講義していただけることに期待がありました。そして、研修会での先生のお話はWISC検査についてその目的や活用方法などをもう一度見直すきっかけになりました。
自分が学級担任の時には、一斉の知能検査がありました。しかし、結果の数値を大まかにしか捉えられていないにもかかわらず、その数値結果によって指導がやりやすいように思っていました。今思うとそのようにしか活用していなくて、個人の支援につなげていたか定かではありません。若気の至りです。
今は、特別支援教室関連の取り組みでWISC検査に触れる機会が増え、検査結果を入級者の教育課程作成や日常の指導に役立てています。入級審査の判断基準にもWISC検査の数値を参考にしています。しかし、子どもさんを支援教室に入級させるため、検査前に練習させているというような話を聞いたこともあります。本来は支援のためのツールなのに、正しく活用されていない例です。知能検査が、被徴兵者の選別に使われたことと同じです。知能検査実施の目的は苦戦する子ども達を理解し、その支援に活かすことが大切であることを再確認いたしました。
また、知能理論と各教科領域とが関連していることにも興味がわきました。教育に携わる者は、各教科がどのような資質能力を育てているのかを意識して指導する必要があります。そして、これを教育課程に反映させていくことも求められていると思います。
先生が強調しておっしゃったように、検査に現れない部分もあると言うことを忘れてはいけないと思いました。XがWより細分化され精度の向上を図っていますが、それでも受検者のすべてが分かるわけではありません。また、WとXに現れる数値と学業の困難さの関連をタイプ別に提示して下さいました。これからは検査結果の読み取りを丁寧に行い、子ども達の支援につなげていきたいです。本当にありがとうございました。
令和3年度の研修報告
日時:2022年2月6日(日)14〜16時
場所:Zoomを用いたウェブ研修会
配信場所:Zoom 300名まで
講師:湯川進太郎先生(白鴎大学教育学部教授)
講演 「怒りとうまくつきあう方法」
今回の研修では湯川進太郎先生をお招きし、怒りとうまくつきあう方法についてご講演いただきました。ご講演の内容は、「怒りとは何か」「筆記開示」「マインドフルネス」の3構成でした。
まず、怒りとは自分自身が脅かされている状況に対して生じる感情とのことです。怒りは長くても2週間程度で自然に鎮静しますが、問題となるのは脅かされる状況を反芻することです。反芻すると、怒ったときと同じような身体の症状が出るので、長期化すると心身の健康問題につながります。この反芻の対応として筆記開示とマインドフルネスが挙げられます。
筆記開示とは、15分程度3〜5回に分け、一人で軽いトラウマティックな体験を書き綴ることで心理的負荷を軽減する方法です。いわゆる怒りの言語化です。不快な出来事の未整理が反芻の原因となります。筆記開示することで、セルフモニタリングと認知的再体制化(行動や情動を整理する)が促されます。実施方法の注意点として、@出来事に関する「事実」と「思考・感情」を分けて書くA出来事の直後は書かない、距離化するのを待つB自己呈示を防ぐためSNSではなく、プライベートなものに書くC本当はどうして欲しかったかを書くD同じ出来事について複数回(数日)書く、などが挙げられます。
マインドフルネスでは、考えないようにしようと努力する(思考抑制)と逆に考え過ぎてしまう(逆説的効果)ことを「1分間シロクマについて考えないようにしましょう」というワークを通して体験しました。ネガティブな考えは、過去にとらわれると反芻し、未来にとらわれると心配が生じ、心のさまよい(マインドワンダリング)状態を引き起こします。マインドフルネスはその状態から脱却し、「今、この瞬間に意識を向け、評価せずに、とらわれのない状態でただ観ること」を目指します。ネガティブ思考にとらわれたとき、それを考えていることに気づき、放っておけるようになることが大切なのです。そのために、最初は5分間姿勢を整え、目を閉じて坐り、呼吸や身体に意識を向け、意識がそれたら気づいて呼吸に意識を戻す。このような練習を習慣的に毎日続けると、ネガティブな考えと上手くつきあっていけるようです。
今回の研修会を通して、怒りは大切なものであることを実感したと同時に、怒りと上手くつきあうために筆記開示やマインドフルネスを自ら実践し、体験したことを関わりのある子どもたちや教員・保護者へ提案していきたいと思いました。
(文責:東京支部記録広報 佐藤 一廣)
令和2年度の研修報告
2020年度第2回研修会
日時:2021年3月14日(日)14〜16時
場所:Zoomを用いたウェブ研修会
配信場所:Zoom 300名まで(東京支部会員限定)
講師:平木典子先生(IPI統合的心理療法研究所顧問)
講演 「心理教育におけるコンサルテーション〜コロナ禍での取り組みも含めて〜」
今回の研修は、平木典子先生をお招きし、東京支部として初めてオンラインで開催しました。心理教育におけるコンサルテーション、体験から始める心理教育についてアサーションを例にご講演いただきました。
まず、コンサルテーションの基本的な考え方については、コミュニティ(町、近隣、学校など)というシステム(相互作用している人々のまとまり)への支援が大切であるとのご提案をいただきました。コンサルテーションはスーパーヴィジョンや教育関連における関係とは区別され、コンサルティが主導で動けるようにしなければいけないこと。特にコロナ禍の状況においては、人類が多くの苦難に遭遇する体験の中で様々な決断が迫られる状況です。このような時、コンサルタントは公平・中立の立場で知識や経験を総動員し、お互いに知恵を出し合い切磋琢磨しなければならないと仰っていました。
次に、心理教育については、そのプログラムが構造化された参加・体験型であるべきだということです。グループワークにより支えあえるような仲間づくりが大切であると仰っていました。体験学習の過程は、Do(体験する)→Look(観察・指摘する)→Think(一般化・概念化する)→Grow(新たな状況へ適用する)→Doに戻るように循環し、従来のPDCAモデルではなくDo(体験)から始める循環型の心理教育プログラムが主流になりつつあるとの考えが示されました。アサーションを例にとると、アサーション・チェックリスト(普段自分がどのような行動をとっているか問われる)を記入し自分の行動を振り返り(Do・Look)、小講義によって「3つのタイプの自己表現」について自己理解を深め(Think)、アサーションができるようになるためにどんなことができるか学ぶ(Grow)という流れになります。
平木先生のご講演は、「子どもの問題状況は、子ども自身の要因と環境要因の相互作用の結果である」という学校心理学の捉え方と重なり、コンサルテーションの考え方の視野を広げることができました。また、体験から始める心理教育の大切さを学ぶことができ、非常に実りの多い研修会でした。
また、以下は研修会で提示された参考文献です。
日本家族心理学会「家族心理学年報25 家族支援の心理教育―その考え方と方法」金子書房
Orforf, J. 「コミュニティ心理学―理論と実践」(山本和郎監訳)ミネルヴァ書房
平木典子「改訂版 アサーション・トレーニング」日本・精神技術研究所・金子書房(3訂版 6月予定)
平木典子「図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術」PHP研究所
平木典子「図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術」PHP研究所
平木典子「アサーションの心」朝日新聞出版
平木典子「アサーション入門」講談社現代新書
平木典子・他「マンガでやさしくわかるアサーション」産業能率協会マネジメントセンター
令和元年の研修報告
2019年度第3回研修会
期日:2020年2月15日(土)
場所:東京成徳大学 東京キャンパス 1206号室
講師:神山 忠 先生(岐阜市立島小学校 主幹教諭)
講演:「発達障害当事者から見たSDGs 〜誰ひとり取り残さない社会に向かって〜」
2020年度 第3回研修会
期日:2020年2月15日(土)
講師:神山 忠 先生(岐阜市立島小学校 主幹教諭)
講演:「発達障害当事者から見たSDGs 〜誰ひとり取り残さない社会に向かって〜」
今回の研修は、岐阜市立島小学校主幹教諭の神山正先生をお招きしました。先生ご自身が当事者として、ご自分の経験を踏まえながら発達の課題を抱える子どもたちへの支援について講演していただきました。
神山先生は文字の読み書き、特に漢字や文章の理解などに苦労され、独自に工夫しながら学校生活を乗り切っていたそうです。文章は下図@のようにうねるように見えてしまい気持ちが悪くなることもあり、また、文字間の詰まった文章だと横書きか縦書きか英語なのか分からなくなることもあったそうです。小学生の時に「たいことばちをもってくる」というメモを受け取り、「たい ことば ち をもってくる」と捉え困惑された経験があったそうです。文字ではなく図では理解しやすいようですが、文字と図のマッチングが上手くできず、特に「と」や「の」のイメージが出来にくいので、多大なエネルギーを使いつつ察しながら理解するようにしていたそうです。
このような困難を抱えていると「何で自分だけわからないんだ」と常に緊張感を持ち、その積み重ねによって大きなストレスを抱えることになります。先生が文章理解のために工夫されたことは、下図Aのように分かち書きにすることです。また、下図Bのようなフローチャートとの出会いによって、文章の理解がすぐに分かるようになったそうです。文章も全て平仮名にすることが適切な支援になるとは限らず、「この子から見てどんなふうに見えるのだろう」という考え方を持つことがポイントになります。その子をよく観察しながらその子に合った支援を見出していくことが大切で、これが合理的配慮にもつながります。合理的配慮を持続可能な支援にしていくためには、ICTの活用などを含め基本的な環境整備と個別的な環境整備を組み合わせることがポイントであるとのご指摘がありました。
発達課題を抱える子どもたちに対して、その子の困難さはどこにあるのか探りながら、その子を集団に無理に適応させるのではなく、集団に認められ共生することが個性を伸ばすことになるのではないかと仰っていました。今回の神山先生の講演は、当事者と支援者の両方の立場からお話をされていたので、非常に臨場感がありとても説得力のある講演会でした。先生のお話を通して、同じような発達課題を抱える子であったとしても、一人一人をよく見ながらその子に合う適切な援助を見出すことが非常に大切であると感じました。
2019年度第2回研修会
期日:2019年10月26日(土)
場所:東京成徳大学 東京キャンパス 4201号室
講師:内田創先生 (立川病院小児科)
講演「小児科診察室と教室・相談室との連携〜発達障害の子どもを医療、教育、心理、地域で支えるために〜」
今回の研修では、立川病院の小児科医内田創先生をお招きし、発達障害診療の実際や神経発達症(発達障害)の医療的アプローチ、教育機関との連携などについてご講演していただきました。発達障害診療の実際として、発達障害児の推定人数に対し、小児科医・児童精神科医の人数が少ないので、予約はすぐにいっぱいになってしまうそうです。発達障害児は人口1万人につき300〜500人と推定されますが、これに対し児童精神科医は人口1万人に2人程度です。このように小児科診療は多忙を極めています。そのなかで内田先生が行っている医療的アプローチとして、並行感覚刺激や感覚統合療法、薬物療法などがあげられます。神経発達症(発達障害)は脳の器質的な問題で、感覚過敏・鈍磨などの感覚入力や感情表出の問題であると捉えます。感覚統合療法では、様々な感覚刺激を自由に与え何が敏感で鈍感なのか評価を行い、感情を他者と共有することで自信につなげていくそうです。また、学校や相談室など教育機関との連携において、より質の高い支援をしていくためにドクター間の情報や診察室での様子だけでなく、担任からの集団での評価、教室内の様子などバックグラウンドの情報共有がポイントになるということでした。必要に応じて学校の先生に病院まで来ていただいてケースカンファレンスを行うこともあるそうです。連携に必要なこととして、各機関の役割を理解すること、各機関が孤立するのではなく独立性を保つこと、連絡方法をわかりやすくすることが挙げられます。講演後、内田先生には多くの参会者から出された質疑等に対し、分かりやすく誠実に答えていただきました。小児科医療の実情をお聞き出来たとても貴重な研修会でした。
2019年度第1回研修会
期日:2019年6月15日(土)
場所:東京成徳大学 東京キャンパス 4201号室
講演:「学習指導要領改訂における特別支援教育のポイント〜通常の学級における変更を中心に〜」
講師:田中裕一 先生(文部科学省初等中等教育局特別支援課特別支援教育調査官)
今回の研修では、文部科学省特別支援教育調査官の田中裕一先生に学習指導要領改訂における特別支援教育のポイントについてご講演いただきました。
はじめに、特別支援教育の現状についてお話がありました。平成19年4月から、従来の盲・聾・養護学校の制度から複数の障害者種別を対象とする特別支援学校の制度に転換される特別支援教育がスタートしました。ここで重要なことは、障害の種別によって対応するのではなく一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な教育活動を展開、必要な支援を行っていくことです。
特別支援教育の対象者は、平成19年から平成29年の間で増加しています。小中学校の特別支援学級の利用者は2.1倍の約23万6千人、通級指導の利用者は2.4倍の約10万9千人に増加しているそうです。高校では、高等学校に進学する発達障害等困難のある生徒の割合は約2.2%(平成21年3月時点)に上ります。高等学校の教育活動にも発達障害等困難のある生徒がいることを前提とした教育活動が必要となります。
学校間の切れ目のない支援をするには引継ぎが重要になります。発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン(平成29年3月)では、個別の教育支援計画を活用した学校間での情報共有(引継ぎ)の留意事項が追記されています。ガイドラインには引継ぎの事例が示されています。
学習指導要領改訂は10年毎に行われます。また、要領の序には「総説」がありますが、改訂に関わる有識者も加速度的に変化する科学の進歩を予測することは非常に難しいとのことでした。改訂の方向性として示された「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」などにより「何ができるようになるか」が問われる時代と定義しています。教員がどう未来を想像し教育活動を実践するか、時代に合わせた教育が求められるそうです。「どのように学ぶか」についても主体的・対話的で深い学びを得るためには、学習過程の改善が必要であるとの指摘がされました。また、小学校学習指導要領等における特別支援教育の充実のポイントとして、特別支援学級に在籍する児童生徒や通級による指導を受ける児童生徒については個別の教育支援計画を全員作成すること、各教科等に学習上の困難に応じた指導方法の工夫などが挙げられます。各教科指導の配慮として、困難さ→手立て・支援の2段階ではなく、困難さ→原因・見立て→手立て・支援の3段階で一人一人の教育的ニーズを把握し見立てを持つ対応が重要であるとのご指摘がありました。
今回の研修では、特別支援教育の現状や学習指導要領の改訂、教科学習における指導方法の工夫など多岐にわたる内容についてポイントを絞って説明していただき、とても得るものが多い研修となりました。
以上の画像は、田中裕一先生に許可を得て掲載しています。
関連ページ
- 今後の研修会
- 東京支部の研修に関わる情報をお届けします。
- おしゃべりプロジェクト