令和5年度の研修報告

○日時   2023年6月18日(日)14〜16時
○会場   Zoomを用いたオンライン研修(東京支部会員及び他支部希望者)
〇参加費  東京支部会員:無料 他支部会員:3000円 准学校心理士:無料
○講演 「新生徒指導提要が示すこれからの自殺予防の方向性」
○講師 新 井 肇先生(関西外国語大学外国語学部)

 

今回の研修会は2022年に改訂された「生徒指導提要」に関する研修でした。特に自殺予防の観点からお話しをいただくということで、これまでSCやSSWとして勤務した経験から非常に強く関心を持っていました。研修は、T今、学校に求められる自殺予防の方向性と課題、U自殺予防を進める上での前提となる理解、V児童生徒の自殺の危険にどう気づくか、W自殺の危険の高まった児童生徒にどう関わるか、X自殺予防教育の方向性と具体的展開、というお話の流れでしたが、とてもわかりやすく、データや具体例を挙げていただきながら進めていただき、どの話も印象的で、本当にたくさんのことを学ぶよい機会になったと感じています。また、専門職として「どう気づき、どう関わるのか」ということについて改めて考える機会になったとも思います。
 1989年の「児童の権利に関する条約」で「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」が保障されていますが、自殺予防に取り組む留意点の中で、そのことを教職員が共通理解しておくことが一番に取り上げられていました。子どもたちが抱える多くの問題に専門職として向き合うとき、強く意識すべきことだと感じています。新井先生は、その上で《不登校児童生徒の教育機会の確保すること》、《幼児期の終わりまでに育ってほしい姿をイメージすること》、《社会的自立に向けた取り組みを意識すること》が大事で、特に社会的自立に関しては《適切に他者に依存すること=充実して生きるためのSOSをだせることが社会的自立といえる》とおっしゃっていました。また子どもだけでなく、大人もSOSを出す力を持つこと(抱え込まない)が大事で、校務分掌や校内での支援体制作り、専門職や関係機関との連携(チーム支援)を通して、安心できる学校環境、下地作りの指導、核となる授業(自殺予防)が求められているとのことでした。さらには、発達障害の子どもは「〜すべき思考」が強く、過大評価や過小評価につながりやすいことから自殺リスクが高いため、自殺予防につながる学校作りの視点として「自己有用感」を高めることが重要というお話も印象に残りました。《立派な話し上手になるよりよい聞き手になることが大事》《こちらが信頼してこそ相手の信頼を得ることができる》という新井先生の言葉も、専門職として心にとめて日々向き合っていきたいと考えているところです。

 

日本学校心理士会東京支部2023年第2回研修会(オンライン開催)
2023年12月3日(日)14:00〜16:00
講師   伊藤美奈子先生(奈良女子大学研究院生活環境科学系臨床心理学領域教授)
タイトル 学校におけるいじめについて〜現状と対応〜

 

 令和4年度の不登校の児童生徒が約30万人(小中学生)と発表され、前年度に比べ約5万人増えたことは社会に大きな衝撃を与えました。学校現場でもこれまで以上に不登校対応が喫緊の課題と意識され、多様な学び学校(いわゆる不登校特例校)や適応指導教室、校内支援センター、フリースクール、子どもの居場所等が注目されるようになりました。   
不登校のきっかけの一つとして取り上げられることの多い「いじめ」について伊藤先生の研修を受ける機会をいただき、とてもタイムリーな研修テーマであったと感じています。研修の内容は、いじめの現状と対応について奈良県で実施された「いじめ実態調査(2022年6月〜8月に奈良県の中高生を対象にグーグルアンケート機能で実施された被害と加害に関する実態調査)の結果をもとに、いじめ被害・加害の有無と気持ち、いじめに関する認識等について分析結果と結果からわかることについて、丁寧にご説明いただきました。興味深い内容に、メモを取る手も止まるほど(!)思わず聞き入ってしまいました。
 いじめを相談しない子どもの比率の高さと相談しない理由は深く考えさせられるものでした。「恥ずかしい」「被害が悪化する=いじめ倍返し?」「ふつうに接してもらいたい」「誰かに言っても解決しない」「相談したくても聞いてもらえない」という項目のアンケート結果から、【被害を受けた子どもは悪化することを恐れ、相談しても解決しないと感じていること】【被害・加害の子どもどちらも「はずかしい」と感じていること】がわかりました。いじめられる子どもやいじめっ子と思われたくないということですが、それを乗り越えるためにも、SOSを出せる体制作りや環境整備が求められているというお話でした。
 いじめの未然防止として<アセスメント><学級作り・人間関係作り><人権教育や道徳教育の充実>、いじめの早期発見として<教員の気づきと共有><相談しやすい環境作り><いじめ実態アンケート>、さらにいじめへの組織的対応として<組織的対応の重要性><いじめられた子・知らせてくれた子を守り通す><いじめた子どもへの支援><家庭への連絡>、最後にいじめ解消の要件として<いじめに係る行為が止んでいること(目安:少なくとも3ヵ月)><被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと>が大事であるとのことでしたが、<いじめた子どもへの支援>の必要性が強調されていたように思います。「いじめ基本方針」では被害者保護主義の傾向が強く、加害者への指導・支援が弱いことが課題であるとの指摘がされており、「生徒指導提要改訂版」では発達支持的生徒指導の観点から「すべての子どもがいじめをしない人に育つ」こと、すなわち被害者のみならず加害者の成長発達を支える視点も必要であることがわかる、とのことでした。
また、単なる実態調査でなくアンケートから救済につなぐことができるよう回答者が特定できるシステムにしてあったことも印象的でした。いじめられている子どもを救済する機会にするという伊藤先生の強い思いに触れ、深い感銘を受けました。研究者であると同時に心理の専門家として、常にできることを実践していらっしゃる姿勢から、将来に希望を持てる子どもたちを育てる大人の責任を改めてお示しいただいたように思います。私も強く意識して子どもたちに寄り添っていきたいと思います。(文責 事務局宮下佳子)

 

令和4年度の研修報告

2022年度第1回研修会

 

日時:2022年6月26日(日)14:00-16:00
テーマ:「情報モラルと教育」 〜AI時代とどのように向き合うのか〜
講師:久保田裕先生(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事)

 

講演の冒頭に自己紹介があり、久保田先生が大村はま先生の教え子であることに驚きました。ずいぶん昔ですが、大田区の教員対象の講演会で、大村先生のお話を聞いたことを思い出しました。今では当たり前のデジタル機器の使用はありませんでした。風呂敷一枚で、生徒を引きつける教材提示の方法を実際に見せていただきました。本日の久保田先生の最先端の情報のお話と、大村先生のアナログ的な授業との正反対に思えるお話が、どこかで繋がっている気がして不思議な感覚でした。大村先生が、自分の考えていることを正しく伝え、相手の言うことを聞くために国語教師になられたというエピソードが印象に残っています。携帯電話やPCがさほど発達していない時代に、生徒たちとコミュニケーションをとりながら、さまざまな経験を積んで、カリスマ教師になられたのだと思います。試行錯誤しながら、生徒に分かりやすく感動を与える授業を作り上げられたのでしょう。多分、風呂敷を使った授業を、他の人がやってもその時だけはうまくいくかもしれません。得た情報をうまく活用したことになりますが、そこで終わっては十分に活用したとは言えません。授業後に評価や分析を行うこと、他の資料や文献などから情報を取捨選択し、更なる実践を積み重ねて自分のオリジナリティを発揮してこそ活用したことになります。
 久保田先生がおっしゃった情報が「カタチではなく内容」だとおっしゃったことに繋がる気がします。情報が創作物であると考えれば、先人たちの創造してきたことに敬意をはらい、自分の苦労を重ねて、新たに創造していくことが大切だと思いました。そして、テクノロジーと人間社会の在り方や情報についての知見を深めること、「情報」とは何かについて知ることの重要さを学ぶ機会でした。
 久保田先生の講演会後、著書である「人生を棒に振るスマホ・ネットトラブル」を読みました。便利だけれど危険がいっぱいである事実を改めて知りました。子どもたちに接する仕事をしている私たち学校心理士は、情報モラルについてもっと深く考え、正しく子どもたちに伝えていかなければいけないと思いました。情報について考える貴重な機会をいただきました。

 

 

 

2022年度第2回研修会
2022年11月27日 「WISC-Xを通して考える知能検査とCHC理論」 坂本條樹先生
                               文責  山田睦子

 

 最新版の知能検査WISC-XやCHC理論について講義していただけることに期待がありました。そして、研修会での先生のお話はWISC検査についてその目的や活用方法などをもう一度見直すきっかけになりました。
 自分が学級担任の時には、一斉の知能検査がありました。しかし、結果の数値を大まかにしか捉えられていないにもかかわらず、その数値結果によって指導がやりやすいように思っていました。今思うとそのようにしか活用していなくて、個人の支援につなげていたか定かではありません。若気の至りです。
 今は、特別支援教室関連の取り組みでWISC検査に触れる機会が増え、検査結果を入級者の教育課程作成や日常の指導に役立てています。入級審査の判断基準にもWISC検査の数値を参考にしています。しかし、子どもさんを支援教室に入級させるため、検査前に練習させているというような話を聞いたこともあります。本来は支援のためのツールなのに、正しく活用されていない例です。知能検査が、被徴兵者の選別に使われたことと同じです。知能検査実施の目的は苦戦する子ども達を理解し、その支援に活かすことが大切であることを再確認いたしました。
 また、知能理論と各教科領域とが関連していることにも興味がわきました。教育に携わる者は、各教科がどのような資質能力を育てているのかを意識して指導する必要があります。そして、これを教育課程に反映させていくことも求められていると思います。
 先生が強調しておっしゃったように、検査に現れない部分もあると言うことを忘れてはいけないと思いました。XがWより細分化され精度の向上を図っていますが、それでも受検者のすべてが分かるわけではありません。また、WとXに現れる数値と学業の困難さの関連をタイプ別に提示して下さいました。これからは検査結果の読み取りを丁寧に行い、子ども達の支援につなげていきたいです。本当にありがとうございました。

令和3年度の研修報告

日時:2022年2月6日(日)14〜16時
場所:Zoomを用いたウェブ研修会
配信場所:Zoom 300名まで
講師:湯川進太郎先生(白鴎大学教育学部教授)
講演 「怒りとうまくつきあう方法」

 

今回の研修では湯川進太郎先生をお招きし、怒りとうまくつきあう方法についてご講演いただきました。ご講演の内容は、「怒りとは何か」「筆記開示」「マインドフルネス」の3構成でした。
まず、怒りとは自分自身が脅かされている状況に対して生じる感情とのことです。怒りは長くても2週間程度で自然に鎮静しますが、問題となるのは脅かされる状況を反芻することです。反芻すると、怒ったときと同じような身体の症状が出るので、長期化すると心身の健康問題につながります。この反芻の対応として筆記開示とマインドフルネスが挙げられます。
筆記開示とは、15分程度3〜5回に分け、一人で軽いトラウマティックな体験を書き綴ることで心理的負荷を軽減する方法です。いわゆる怒りの言語化です。不快な出来事の未整理が反芻の原因となります。筆記開示することで、セルフモニタリングと認知的再体制化(行動や情動を整理する)が促されます。実施方法の注意点として、@出来事に関する「事実」と「思考・感情」を分けて書くA出来事の直後は書かない、距離化するのを待つB自己呈示を防ぐためSNSではなく、プライベートなものに書くC本当はどうして欲しかったかを書くD同じ出来事について複数回(数日)書く、などが挙げられます。
マインドフルネスでは、考えないようにしようと努力する(思考抑制)と逆に考え過ぎてしまう(逆説的効果)ことを「1分間シロクマについて考えないようにしましょう」というワークを通して体験しました。ネガティブな考えは、過去にとらわれると反芻し、未来にとらわれると心配が生じ、心のさまよい(マインドワンダリング)状態を引き起こします。マインドフルネスはその状態から脱却し、「今、この瞬間に意識を向け、評価せずに、とらわれのない状態でただ観ること」を目指します。ネガティブ思考にとらわれたとき、それを考えていることに気づき、放っておけるようになることが大切なのです。そのために、最初は5分間姿勢を整え、目を閉じて坐り、呼吸や身体に意識を向け、意識がそれたら気づいて呼吸に意識を戻す。このような練習を習慣的に毎日続けると、ネガティブな考えと上手くつきあっていけるようです。
今回の研修会を通して、怒りは大切なものであることを実感したと同時に、怒りと上手くつきあうために筆記開示やマインドフルネスを自ら実践し、体験したことを関わりのある子どもたちや教員・保護者へ提案していきたいと思いました。
(文責:東京支部記録広報 佐藤 一廣)

令和2年度の研修報告

2020年度第2回研修会
日時:2021年3月14日(日)14〜16時
場所:Zoomを用いたウェブ研修会
配信場所:Zoom 300名まで(東京支部会員限定)
講師:平木典子先生(IPI統合的心理療法研究所顧問)
講演 「心理教育におけるコンサルテーション〜コロナ禍での取り組みも含めて〜」

 

今回の研修は、平木典子先生をお招きし、東京支部として初めてオンラインで開催しました。心理教育におけるコンサルテーション、体験から始める心理教育についてアサーションを例にご講演いただきました。
まず、コンサルテーションの基本的な考え方については、コミュニティ(町、近隣、学校など)というシステム(相互作用している人々のまとまり)への支援が大切であるとのご提案をいただきました。コンサルテーションはスーパーヴィジョンや教育関連における関係とは区別され、コンサルティが主導で動けるようにしなければいけないこと。特にコロナ禍の状況においては、人類が多くの苦難に遭遇する体験の中で様々な決断が迫られる状況です。このような時、コンサルタントは公平・中立の立場で知識や経験を総動員し、お互いに知恵を出し合い切磋琢磨しなければならないと仰っていました。
次に、心理教育については、そのプログラムが構造化された参加・体験型であるべきだということです。グループワークにより支えあえるような仲間づくりが大切であると仰っていました。体験学習の過程は、Do(体験する)→Look(観察・指摘する)→Think(一般化・概念化する)→Grow(新たな状況へ適用する)→Doに戻るように循環し、従来のPDCAモデルではなくDo(体験)から始める循環型の心理教育プログラムが主流になりつつあるとの考えが示されました。アサーションを例にとると、アサーション・チェックリスト(普段自分がどのような行動をとっているか問われる)を記入し自分の行動を振り返り(Do・Look)、小講義によって「3つのタイプの自己表現」について自己理解を深め(Think)、アサーションができるようになるためにどんなことができるか学ぶ(Grow)という流れになります。
 平木先生のご講演は、「子どもの問題状況は、子ども自身の要因と環境要因の相互作用の結果である」という学校心理学の捉え方と重なり、コンサルテーションの考え方の視野を広げることができました。また、体験から始める心理教育の大切さを学ぶことができ、非常に実りの多い研修会でした。

 

また、以下は研修会で提示された参考文献です。
日本家族心理学会「家族心理学年報25 家族支援の心理教育―その考え方と方法」金子書房
Orforf, J. 「コミュニティ心理学―理論と実践」(山本和郎監訳)ミネルヴァ書房
平木典子「改訂版 アサーション・トレーニング」日本・精神技術研究所・金子書房(3訂版 6月予定)
平木典子「図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術」PHP研究所
平木典子「図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術」PHP研究所
平木典子「アサーションの心」朝日新聞出版
平木典子「アサーション入門」講談社現代新書
平木典子・他「マンガでやさしくわかるアサーション」産業能率協会マネジメントセンター

令和元年の研修報告



2019年度第3回研修会
期日:2020年2月15日(土)
場所:東京成徳大学 東京キャンパス 1206号室
講師:神山 忠 先生(岐阜市立島小学校 主幹教諭)
講演:「発達障害当事者から見たSDGs 〜誰ひとり取り残さない社会に向かって〜」
2020年度 第3回研修会
期日:2020年2月15日(土)
講師:神山 忠 先生(岐阜市立島小学校 主幹教諭)
講演:「発達障害当事者から見たSDGs 〜誰ひとり取り残さない社会に向かって〜」

 

今回の研修は、岐阜市立島小学校主幹教諭の神山正先生をお招きしました。先生ご自身が当事者として、ご自分の経験を踏まえながら発達の課題を抱える子どもたちへの支援について講演していただきました。
神山先生は文字の読み書き、特に漢字や文章の理解などに苦労され、独自に工夫しながら学校生活を乗り切っていたそうです。文章は下図@のようにうねるように見えてしまい気持ちが悪くなることもあり、また、文字間の詰まった文章だと横書きか縦書きか英語なのか分からなくなることもあったそうです。小学生の時に「たいことばちをもってくる」というメモを受け取り、「たい ことば ち をもってくる」と捉え困惑された経験があったそうです。文字ではなく図では理解しやすいようですが、文字と図のマッチングが上手くできず、特に「と」や「の」のイメージが出来にくいので、多大なエネルギーを使いつつ察しながら理解するようにしていたそうです。
このような困難を抱えていると「何で自分だけわからないんだ」と常に緊張感を持ち、その積み重ねによって大きなストレスを抱えることになります。先生が文章理解のために工夫されたことは、下図Aのように分かち書きにすることです。また、下図Bのようなフローチャートとの出会いによって、文章の理解がすぐに分かるようになったそうです。文章も全て平仮名にすることが適切な支援になるとは限らず、「この子から見てどんなふうに見えるのだろう」という考え方を持つことがポイントになります。その子をよく観察しながらその子に合った支援を見出していくことが大切で、これが合理的配慮にもつながります。合理的配慮を持続可能な支援にしていくためには、ICTの活用などを含め基本的な環境整備と個別的な環境整備を組み合わせることがポイントであるとのご指摘がありました。
 発達課題を抱える子どもたちに対して、その子の困難さはどこにあるのか探りながら、その子を集団に無理に適応させるのではなく、集団に認められ共生することが個性を伸ばすことになるのではないかと仰っていました。今回の神山先生の講演は、当事者と支援者の両方の立場からお話をされていたので、非常に臨場感がありとても説得力のある講演会でした。先生のお話を通して、同じような発達課題を抱える子であったとしても、一人一人をよく見ながらその子に合う適切な援助を見出すことが非常に大切であると感じました。

 



 

 

2019年度第2回研修会
期日:2019年10月26日(土)
場所:東京成徳大学 東京キャンパス 4201号室
講師:内田創先生 (立川病院小児科)
講演「小児科診察室と教室・相談室との連携〜発達障害の子どもを医療、教育、心理、地域で支えるために〜」

 

今回の研修では、立川病院の小児科医内田創先生をお招きし、発達障害診療の実際や神経発達症(発達障害)の医療的アプローチ、教育機関との連携などについてご講演していただきました。発達障害診療の実際として、発達障害児の推定人数に対し、小児科医・児童精神科医の人数が少ないので、予約はすぐにいっぱいになってしまうそうです。発達障害児は人口1万人につき300〜500人と推定されますが、これに対し児童精神科医は人口1万人に2人程度です。このように小児科診療は多忙を極めています。そのなかで内田先生が行っている医療的アプローチとして、並行感覚刺激や感覚統合療法、薬物療法などがあげられます。神経発達症(発達障害)は脳の器質的な問題で、感覚過敏・鈍磨などの感覚入力や感情表出の問題であると捉えます。感覚統合療法では、様々な感覚刺激を自由に与え何が敏感で鈍感なのか評価を行い、感情を他者と共有することで自信につなげていくそうです。また、学校や相談室など教育機関との連携において、より質の高い支援をしていくためにドクター間の情報や診察室での様子だけでなく、担任からの集団での評価、教室内の様子などバックグラウンドの情報共有がポイントになるということでした。必要に応じて学校の先生に病院まで来ていただいてケースカンファレンスを行うこともあるそうです。連携に必要なこととして、各機関の役割を理解すること、各機関が孤立するのではなく独立性を保つこと、連絡方法をわかりやすくすることが挙げられます。講演後、内田先生には多くの参会者から出された質疑等に対し、分かりやすく誠実に答えていただきました。小児科医療の実情をお聞き出来たとても貴重な研修会でした。

 

 

 

 

 

2019年度第1回研修会
期日:2019年6月15日(土)
場所:東京成徳大学 東京キャンパス 4201号室
講演:「学習指導要領改訂における特別支援教育のポイント〜通常の学級における変更を中心に〜」
講師:田中裕一 先生(文部科学省初等中等教育局特別支援課特別支援教育調査官)

 

 今回の研修では、文部科学省特別支援教育調査官の田中裕一先生に学習指導要領改訂における特別支援教育のポイントについてご講演いただきました。
 はじめに、特別支援教育の現状についてお話がありました。平成19年4月から、従来の盲・聾・養護学校の制度から複数の障害者種別を対象とする特別支援学校の制度に転換される特別支援教育がスタートしました。ここで重要なことは、障害の種別によって対応するのではなく一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な教育活動を展開、必要な支援を行っていくことです。
特別支援教育の対象者は、平成19年から平成29年の間で増加しています。小中学校の特別支援学級の利用者は2.1倍の約23万6千人、通級指導の利用者は2.4倍の約10万9千人に増加しているそうです。高校では、高等学校に進学する発達障害等困難のある生徒の割合は約2.2%(平成21年3月時点)に上ります。高等学校の教育活動にも発達障害等困難のある生徒がいることを前提とした教育活動が必要となります。
 学校間の切れ目のない支援をするには引継ぎが重要になります。発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン(平成29年3月)では、個別の教育支援計画を活用した学校間での情報共有(引継ぎ)の留意事項が追記されています。ガイドラインには引継ぎの事例が示されています。
 学習指導要領改訂は10年毎に行われます。また、要領の序には「総説」がありますが、改訂に関わる有識者も加速度的に変化する科学の進歩を予測することは非常に難しいとのことでした。改訂の方向性として示された「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」などにより「何ができるようになるか」が問われる時代と定義しています。教員がどう未来を想像し教育活動を実践するか、時代に合わせた教育が求められるそうです。「どのように学ぶか」についても主体的・対話的で深い学びを得るためには、学習過程の改善が必要であるとの指摘がされました。また、小学校学習指導要領等における特別支援教育の充実のポイントとして、特別支援学級に在籍する児童生徒や通級による指導を受ける児童生徒については個別の教育支援計画を全員作成すること、各教科等に学習上の困難に応じた指導方法の工夫などが挙げられます。各教科指導の配慮として、困難さ→手立て・支援の2段階ではなく、困難さ→原因・見立て→手立て・支援の3段階で一人一人の教育的ニーズを把握し見立てを持つ対応が重要であるとのご指摘がありました。
 今回の研修では、特別支援教育の現状や学習指導要領の改訂、教科学習における指導方法の工夫など多岐にわたる内容についてポイントを絞って説明していただき、とても得るものが多い研修となりました。

 

 


以上の画像は、田中裕一先生に許可を得て掲載しています。

平成30年度の研修報告



平成30年度第3回研修会
期日:2019年3月2日(土)
講師:井ノ山正文 先生(教育環境研究センター代表 東京造形大学非常勤講師)
講演「学校へのコンサルテーション ―学校現場のニーズに応じた支援の方法」

 

今回の研修では、東京支部の副支部長でもある井ノ山正文先生に、学校へのコンサルテーションについてご講演いただきました。
 コンサルテーションのポイントとしてアセスメントについてお話がありました。先生によるとアセスメントとは、「その子がよりよく生活できるため、見通しを持てるためのサポート」と考えます。また、課題のある子どもに対して「困る子」ではなく「困っている子」として捉えながら、行動面の課題を適切に理解することが重要であるとご指摘がありました。さらに、個のアセスメントだけではなく担任の先生を含めた集団のアセスメントも重要で、どのような環境でどのような人間関係があるのか見極めることも大切であると話されていました。そのアセスメントをもとに具体的な環境調整や合理的配慮の提案をすることが、教員へのコンサルテーションのポイントになるそうです。
具体的な援助ニーズに着目すると、小学校における援助ニーズの約半分を占めるのが「授業方法や学級経営上の配慮」です。授業学習環境や指導ルールの定着などに着目してコンサルテーションをすることで、教員からの同意を得て改善につながりやすいそうです。
 管理職へのコンサルテーションのポイントは、個人や集団のアセスメントに基づいたコンサルテーションだけではなく、教員同士の関係や学校全体をアセスメントし、マクロの視点を持つことが大切であるとご指摘されていました。
研修終盤にはSIG(SOCIAL INTERACTION GAMES:対人関係ゲーム)を体験しました。このゲームは発声や身体運動などの遊びを通して社会的場面による過度の不安や緊張を拮抗制止するものです。ここでは、交流することを目的とした「ひたすらジャンケン」や「探偵ゲーム」などで周囲の人たちと交流を深めました。SIGをきっかけに、子どもたちは集団に慣れ、楽しいクラスだと思えるようになるそうです。
今回の研修を通して、マクロの視点を持ち自分の立場でどんなコンサルテーションができるのかを考える大切さを学びました。また、現場に活かせるSIGを周囲の方たちと楽しく体験することができ、充実した研修でした。

 

 

 

平成30年度第2回研修会
期日:2018年12月15日(土)
講師:赤坂 真二 先生(上越教育大学大学院 学校教育研究科学校教育学系 教授)
講演「目的論に基づく気になる子の支援のあり方」

 

今回の研修では上越教育大学教職大学院の赤坂真二先生をお招きし、アドラー心理学の目的論に基づいた気になる子への支援についてご講演いただきました。
 アドラー心理学では、原因論ではなく目的論に立つことを重視します。目的論では子どもの行動を「何のために行動しているのか」という視点で捉えます。子どもの問題行動を原因論で考えると「あの家庭は・・」「あの子の性格が・・」「自分の対応が・・」など原因を考えますが、分かったところで何もできないことが多いようです。一方、目的論で考えると、あの問題行動は「気を引くため」→「気の引き方が間違ってるのでは」、「一緒に遊びたい」→「遊び方が違うのでは」、「ストレスを発散したい」→「発散の仕方が適切でないのでは」など、行動の目的が分かれば問題行動に代わる適切な行動を考えることができます。さらに、キレる子を例にあげると、キレる目的に「要求を通す」「嫌なことが免除される」「関わりが持てる」などが考えられます。キレている限り得られるものがあると問題行動は減少しません。そこで報酬を与えない対応として廊下でクールダウンさせるなど「注目から遮断する」という対応をとります。行動の消去をねらった対応ですが、この対応だけでは不十分で、「暖かいスルー(教育的スルー)」が必要となります。「暖かいスルー」とは、スルーしたあとに適切な行動に注目することです。この適切な行動への注目がないと「冷たいスルー」になってしまい悪化するそうです。適切でない行動には注目せず行動の減少をねらい、適切な行動には注目し強化するといった「適切な行動」を探すことが支援のポイントになるそうです。
 今回の研修では、元小学校教員である赤坂先生が体験された具体例から、問題行動を原因論で考えるのではなく目的論で考える大切さを学びました。近くの方と対話する機会も多々あり、先生がユーモアを交えながらお話されていたので、笑いが絶えずあっという間の研修でした。

 

 

 

平成30年度第1回研修会
期日:2018年6月30日(土)
講師:沢宮容子先生 (筑波大学人間系 教授)   
「認知行動療法に活かす動機づけ面接法」

 

これまで東京支部では研修会ごとにアンケートを実施し会員の皆さまのニーズに応えられるように内容を検討し、研修会を実施してきました。今回の研修は、学校心理士として現場で活かせる面接法としてこのテーマを選びました。講師の沢宮容子先生はカウンセラーの経験もお持ちで、実践的な研究者として多くの論文、著作があります。
 さて、研修会では動機づけ面接法(Motivational Interviewing;MI)についての紹介から始まりました。行動療法の専門家であるミラー(ニューメキシコ大学)とロルニック(カーディフ大学)が開発した対人援助論であるMIは、受容的応答を旨とする来談者中心的要素と、特定の変化に指向させる目標指向的要素を併せ持つ面接のスタイルということです。また、アルコール問題を持つ来談者への面接が効果的だった治療者のスタイルを分析し、さらに洗練されました。これにより、様々な領域(教育・司法・福祉・医療等)でMIが取り組まれています。また、多理論統合モデルにおける心理療法のシステムの統合でも対象者の変化のステージとレベルに応じて選択される支援方法として取り上げられています。
 エクササイズについては面接のパターンが2つあり、より実践的な枠組みとなっています。さらに面接場面における維持トーク(Sustain Talk)とチェンジトーク(Change Talk)がポイントとなります。基本技法としては、OARSが示されました。O:開かれた質問(Open question)「はい」「いいえ」で答えられない質問 A:是認(Affirming)相手の強みや努力に言及する R:聞き返し(Reflecting)相手の言葉をそのまま、または治療者の理解した内容で返す S:要約(Summarizing)相手の言動や考えを、箇条書きのように並べていく、ということでした。前述したように来談者中心的要素を持ちつつもチェンジトーク側の詳細や理由を尋ねるのが原則(分化強化)となっていること、来談者のよい点(強み、努力、意図)につい
て言及すること、そして是認は称賛ではなく本心から思えることを「控えめに」言
及(正したい反射による維持トークを防止)することなどが示されました。「聞き返し」「共感」「文末の上げ下げ」「肯定文と否定文」「要約」などについてもOARSの説明の中で具体的に触れていただきました。印象的だったフレーズに「into an empty glass or from a deep well」と「Dancing not Wrestling」があります。関係性を端的に表す言葉だと感じました。今回は、演習も取り入れていただき研修会終了後のアンケートでは多くの参加者から好評を得ました。
                  (文責:東京支部副支部長 井ノ山正文)

 

 

平成29年度の研修報告



平成29年度第3回研修会
期日:2018年3月17日(土)
講師:川上康則先生 (東京都立矢口特別支援学校)   
「通常の学級における・発達につまづきのある子どもの輝かせ方」

 

研修会感想
今回の研修会は、東京都立矢口特別支援学校の川上康則先生に、発達につまずきのある子どもたちの気持ちをどのように理解し、どのような支援を提供すれば子どもたちが輝けるのかについてご講演いただきました。
発達につまずきのある子どもたちは、できない・わからない・やってもらう経験を繰り返すことによって、がんばろう・理解しよう・自分でやろうという気持ちが無くなり、自尊感情の低下や学習性無力感に陥りやすいそうです。そこで、援助要求スキルを教えることで、自分を支えていけるようにすることがポイントになります。しかし、自尊感情の低い子どもは、教えられ恐怖症(「こんなこともわからないのか」、「なぜできないんだ」と叱られるかもしれないという恐怖)に陥っていることが多く、援助を求められないことが多いそうです。そこで、教師は「わからない子供の気持ち」を理解し、「安心してわからないと言える教室」作りを目指していくことが大切になります。「安心してわからないといえる教室」作りには、「わからない人はいませんか?」と言う質問から「ピンとこない人はいませんか?」」「なんだかスッキリしない人はいませんか?」など、質問の引き出しを増やしていくことで援助要請が出やすくなるようです。
また、学級経営の「織物モデル」論(横藤、2011)をご紹介いただきました。学級経営の織物モデルとは、縦糸を教師と子どもをつなぐ垂直的な関係、横糸を子供どうしの水平な関係とします。はじめに管理−服従ではない強固な縦糸を作り、次に横糸を太くし、最終的には縦糸が目立たなくなるくらいに横糸を強くしていくことで、良好な学級経営が築けるというモデルです。縦糸作りのために、教師の指示に従うことやルールを守ることを目的としたゲームやアクティビティを行います。実際に研修会では、参加者全員がゲームに参加することで、自然と指示に従いルールを守れるようになることを体験しました。この体験を通し、生徒の立場に立つことができ、大変勉強になりました。

 

 

 

平成29年度第2回研修会
期日:2017年10月28日(土)
講師:市川宏伸先生 (日本自閉症協会会長)   
「特別支援教育と医療」

 

研修会感想
今回の研修会では、日本自閉症協会会長である市川宏伸先生をお招きし、発達障害者への支援について、医学的視点から発達障害者支援法改正の要点や医学的診断、薬物治療の要点などご講演していただきました。
平成17年に施行された発達障害者支援法は平成28年に議員立法として改訂されました。先生のご講演のなかで特に重要だと感じたのは、発達障害の当事者だけでなく「家族その他の関係者」への支援が追加されたことです。これは、当事者の“生きづらさ”を解消するだけではなく、保護者が“育てにくさ”を感じることなく、社会生活を営むことができるようにするために追加され、その実現には、乳幼児期からの各ライフステージを通じた切れ目のない支援が必要であることを説明していただきました。
次に、医学的診断の要点として、胎生期、周産期の状況から就学前、学童期、思春期の状況を踏まえたうえで発達検査や性格検査などを総合して診断されること。そのなかでも意識するポイントは、一つの結果だけに頼らず総合的に判断すること、診断することにより適切な対応あるいは治療ができることが前提にあることを教えていただきました。また、診断時の保護者への配慮として、保護者が前向きになる診断を意識し、保護者が受け入れられるタイミングかどうかの見極めも重要であり、本人・保護者の依頼に基づく診断が円滑な支援への基本であると教えていただきました。
薬物治療についても説明していただき、特に印象に残ったことは、治療薬は症状そのものを改善するわけではなく、治療薬によって症状が落ちついている間に、周囲から適切な対応をすることが重要であるということです。このことを支援者側が意識することによって、当事者への対応がより適切になるのではないかと感じました。
先生の講演から、発達障害者への支援について、それぞれのライフステージにおいて隙間のない連続的な支援の必要性や当事者だけでなく周りの家族、関係者への支援も考慮することなど、より幅広く長い目で支援していくことが大切であることを学ぶことができた研修会でした。

 

 

 

平成29年度第1回研修会
期日:2017年6月17日(土)
講師:浦尾悠子先生 (千葉大学子どものこころの発達教育研究センター)   
「不安への対処力を養う認知行動療法の授業実践」

 

研修会感想
今回の研修会は、千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任助教浦尾悠子先生にご講演していただき、子どもを対象とした認知行動療法に基づく不安予防プログラム「勇者の旅」をご紹介していただきました。
先生から子どもの不安の問題に対処しなければ、不登校・引きこもり・うつ病などの不安症につながり、放置すると慢性化しやすいので、不安の問題に対し予防のためのアプローチを行うことが重要であることのご指摘がありました。
この不安予防プログラム「勇者の旅」は、子どもが不安対処スキルを身につけることを目的とし、対象は小学校高学年から中学生です。事前に「勇者の旅」指導者養成研修会に参加した教員がプログラムを実施しています。プログラム内容は8ステージあります。
ステージ1:色々な気持ちがあること、様々な感情への気づきなどの基本感情の理解
ステージ2:不安感情の理解と目標設定
ステージ3:身体反応とリラクゼーション
ステージ4:不安階層表の作成
ステージ5:考えと感情を切り分ける練習
ステージ6:非機能的思考と反芻
ステージ7:認知再構成法
ステージ8:対人不安を減らすコミュニケーション
 それぞれのステージでは、不安階層表を「勇者の階段」、反芻を「グルグル妖精のいたずらマジック」など小学生でもわかりやすく、ゲーム感覚で学べるように工夫されていることが印象的でした。この「勇者の旅」の実践により不登校児童の減少、対人不安が生じにくい学級環境の形成、教員のメンタルヘルス増進などの効果が期待されています。
 先生の講演から、一部の不安の高い子どもだけではなく、すべての子どもを対象に不安対処スキルを身につけていくことが大切であるというご指摘から、一次的援助サービスをより充実させていくことの重要性を改めて感じさせていただくことができました。

平成28年度の研修報告



平成28年度第3回研修会
期日:2017年3月18日(土)
講師:石隈利紀先生
「石隈利紀の実践事例:子ども・学校の援助
〜あれ(学校心理士誕生)から20年」

 

あれから、そうです、学校心理士認定が1997年に始まってから20年です。
今回は認定20周年記念として、日本学校心理士会会長石隈先生が、
子ども・学校への援助事例を語ります。

 

アメリカカリフォルニア州の小学校、大学の学生相談室・
心理・発達教育相談室、神奈川県・茨城県等での長年の実践から、
発達障害の子どもとの面接、キャンパスでの自殺予防活動、
不登校の子どもに寄り添う保護者への同行、弁護士と協働での
いじめ事案への対応、教育委員会・学校・大学のチームによる
フレックス高校づくり、支援教育システムづくりなどが取り上げられます。
援助者の苦戦、工夫、悲しみ、笑顔が伝わる時間になると思います。

 

乞うご期待。この機会をお見逃し無く!

 

 

研修会感想
 嘗て筑波大学東京キャンパス文京校舎が東京教育大学の名残を残していた校舎だった頃、石隈研究室の扉には「みんなが資源みんなで支援」のキャッチフレーズがありました。石隈先生が制度設計にかかわった神奈川県の支援教育でも、鎌倉養護学校ではこのキャッチフレーズが使われていました。チーム援助の方向性を明確に示す言葉であると思います。
 さて、今回の研修会では石隈先生ご自身の「大学受験の失敗と挫折」から始まりました。「家庭教師」という天職に出会う中で学びの方向性を得られたこと、そして、30代でDrs.Kaufmanと出会ったことが今に繋がっていることをお話しされました。
この時期は、「学校心理学」入門期とされていて、知能検査の時に「子どもが自分のことを話し始めたら検査をやめてもよい」、と答えられたDrs.Kaufmanの言葉から「その子が必要なことを行う」というスタンスを得られたとのことでした。また、Albert EllisのSVから「トシのは論理療法になっているよ。でも少しゆっくりだね」との言葉に力を得、その後、カリフォルニアでスクールサイコロジスト(インターン)、SDSU大学院で学校心理学及びアセスメントの授業を担当されました。
 カリフォルニアの小学校での事例からは、アセスメントの重要性や学習と心の支援は分けられないということ、そして、IEPは契約書でありどこに行っても使えるものであること、IEPチーム会議の時間が確保されていることなどについて話されました。また、先輩のスクールサイコロジストが「強いところのフィードバック」「教師を元気にする」という観点を示してくれたり、知能検査でも保護者からの苦情の対応などを上司が示してくれたりしたことなどがあり、これはチーム援助の大切な働きに繋がることと思いました。
日本へ帰国してからも学生相談室のカウンセラーとして活動され、学校心理学と臨床心理学との違和感から、臨床心理学と学校心理学の架橋としてコミニュティーアプローチと学校生活の援助という視点を示されました。これは、その後「心理教育的援助サービスの専門家」としての学校心理士認定に繋がる考えとなります。学校システムが変わること、子どもが参加する「チーム」を目指すこと、子ども自身の自助資源を発見し、援助資源に繋ぐことの大切さを示された研修会でした。

 

 

平成28年度第2回研修会
日本学校心理士会2016年度大会
期日:2016年12月3日(土)・4日(日)
会場:東京成徳大学 東京キャンパス(〒114-0033 東京都北区十条台1-7-13)
    JR埼京線「池袋駅」から2つ目「十条駅」南口下車徒歩5分

 

 

 

 

平成28年度第1回研修会
2016年6月26日(土)
講演 「非行少年の立ち直り支援とカウンセリング」
講 師:角田 亮先生 東京保護観察所・民間活動支援専門官(保護観察官)

 

研修会感想
今回の研修は、東京保護観察所保護観察官角田亮先生にご講演していただきました。保護観察官の仕事について、イメージビデオを見ながら「更生保護」ということについて学ぶ機会となりました。保護観察所の取組は、(1)保護観察(2) 生活環境の調整(3)更生緊急保護(4)恩赦の上申(5)犯罪予防活動(6)医療観察です。
そして、保護観察官は少年の立ち直りと再非行の防止が重要な仕事となります。それは、犯罪をした少年のためだけではなく、犯罪がなくなることで国民が安心して暮らせるためでもあるいうことでした。しかし、再犯率、再非行少年率が増えているということ、少年に対して「傾聴と共感」だけで関わってしまうと、悪い行動を強化してしまい再犯につながることもあるとのご指摘がありました。更生には、「傾聴と共感」だけではなく、「向社会的な態度を培う」ことも同時に行わなければならないということでした。再犯を減らすためにはリスクアセスメントを行い、処遇を正しく行うことが必要だそうです。そして、効果的でない働きかけは、@(反社会的な価値観や仲間を減らすことをしないで)自尊心を高める。A犯罪に関係がない情緒的であいまいな不満に焦点を当てる。B反社会的集団の凝集性を高める。C多様な価値観を認める前提で、反社会的な価値観を尊重する態度を示す。D具体的な支援なしに目標を持たせる。効果的な働きかけとしては、向社会的な行動を示すことが必要で、認知行動論的な考え方及び取組は効果があるようです。@行わせたい行動をやってみせる(モデルを示す)。A続けさせたい行動に対して報酬を与える(強化)。B正しいフィードバックを伴う練習の機会を与える(役割演技)。C行わせたい行動を小さなステップに分けて練習する(単会的練習)。個々の認知・行動特性に留意しつつ介入を考えることが大切だそうです。
 角田先生のご講演から私たちが犯罪や非行をした人に関わるとき、支援者として、また地域の住人として、職場の同僚として、どのように行動することが必要なのか考える機会となりました。また、更生についても、出所後に差別を受けたり、仕事がなかったり、帰住先がなかったりする人もいるということでした。そのような時に保護観察官や保護司が犯罪をした人の社会復帰に向き合ってくれることで希望が持てると思います。保護司の方たちはボランティアですが、担当していた人が更生して就職したり、結婚して子どもができたりという報告を楽しみにすることなども保護司の仕事を続ける要因とのことでした。出所後の社会復帰を近くで支える保護司の方々の存在の大きさを知ることができました。

 

平成27年度の研修報告



平成27年10月24日
「難 しくなる保護者対応・近隣住民対応〜学校としてしてはいけないこと、すべきこと」
小野田正利先生(大阪大学大学院)
研修会感想
10 月24 日(土)、小野田正利先生(大阪大学大学院)を講師としてお迎えし、「難しくなる保護者対応・近隣住民対応〜学校としてしてはいけないこと、すべきこと」をテーマにご講演いただいた。(会場:TKP渋谷カンファレンスセンター)唐草模様の上着を纏い、迫力と熱意ある口調で語られる事例の数々は今日の学校状況を的確に表す内容であった。また、学校に対し様々な訴えを投げかける保護者への対応などについても多くのヒントを提供していただいた。さて、なぜ保護者対応や地域対応が難しくなってきたのであろうか。学校とは、本来授業を軸に展開される場であり、教員は授業をいかに児童・生徒に提供するかという点において腐心することが主眼であった。しかし、病院では「患者様」、役所では「お客様」と呼ばれる時代の流れの中では、学校に求められるサービスの質も大きな転換を求められるようになったこと。そして、消費社会は公教育をも産業化の渦に飲み込んでしまったことが要因としあげられるであろう。そのような中で、保護者・地域への対応の困難さを抱える学校も多い。今回の研修では、そのような困難さを改善していくことへの手がかりを得られたのではないかと考えている。

 

 

 

平成27年6月6日
「アスペルガー症候群と私 ―当事者・支援者・家族の立場から―」
村上 由美先生(言語聴覚士・認定コーチングスペシャリスト)
今回の研修では、ご自身がアスペルガー症候群であるという村上先生にご講演いただきました。
当事者であり、支援者であり、家族である立場から子ども時代から現在に至るまでをご自身の経験を通して語っていただくという大変貴重なものでした。
3歳まで言葉を話さなかったこと、多動で落ち着きがなかったこと、偏食であったこと、などが早期発見された理由だったそうです。
しかし当時の大学病院では、「母親の愛情不足」と言われたり、小学校では教師に説明をするが理解されなかったりなど、現在から数十年前のこととは言え、発達障害への理解と研究が発展途中であったことが伺えます。
そして学童期、思春期、青年期と成長していく中では、人との関わり方や価値観の違 いに戸惑いながら過ごされてきました。
一連の時期を通して課題となっていたのは、
@人との関わり方(相談力・親、友人との距離の取り方など)
A自立生活の習慣づけ(整理整頓・お金の管理など)
B客観的に自己を捉える(自身の障害の自覚・人間関係の割り切り方)
C気分転換方法(居場所づくり)で、
特に人との関わりが必要となる相談力については、高度なスキルが必要であることを教えてくれました。
信頼できる相手を選ぶこと、具体的にどのように伝えるか以外にも、思い込みにより目標と現状のギャップが認識できていない時には整理する手助けが必要とのことでした。
また、各課題の対応策で私が印象に残ったものはBについてのものでした。「本人が実感するまで伝え続ける」というものです。
周囲との違いを理解できる瞬間がくるまで伝えるというものでし た。
支援する側としては、一般的価値観が伝わりにくいことで、焦りや諦めを感じることもあるかもしれません。しかしこのシンプルな答えは、思考の固さはあるが、いつか理解できる時のための一指標を与え続けること、その意味と可能性を表した当事者ならではの答えであると感じました。
 また、当時欲しかった支援については
@理解者(感覚の違いなど)
A相談相手(問題点を指摘し一緒に考えてくれる・進路・時間や物の管理方法など)
B枠組み(授業の集団行動)が挙げられていました。
しかしこのような支援が少なかったとは言え、現在は生活の工夫を行いながら仕事やご夫婦での生活を送っているのも事実です。
村上先生は周囲にお願いしたい支援に「自身(発達障害児)のセルフ・トレーニング」を挙げています。
人から教わる経験・交流から異なる常識や考えがあることを知って欲しいとおっしゃっていました。
コミュニケーションの課題は社会生活を送る上でやはり切り離せないようです。
おわりに、私達が発達障害の子どもに出会った時に、考えることの一つとして「周りの人はどのように支え・工夫しているのだろうか」といった「支える立場の視点」があるのではないでしょうか。
しかし、私達はあくまで子どもの「支える立場」でしかなり得ません。
子どもが何に葛藤し、どんな支援を欲しているのか、その子の視点で分析して考えることの大切さを村上先生の『生きた話』で改めて感じさせられました。

 

 

 

 

平成25年度の研修報告



平成26年3月15日
「学校心理士にとって コミュニティアプローチとは〜アドボカシーの活動に焦点をあてて〜」
井上 孝代先生(明治学院大学名誉教授)
ご講演では価値基準が多様化した多元的現代社会における問題点として、自己肯定感の育ちの難しさや心理的居場所の問題をご説明頂きました。
このような問題を解決するためにも、コミュニティアプローチが重要であること、その背景となる理論、多様なアプローチの方法についてご紹介いただきました。
また、学校心理士も果たすべき役割として、子どもたちをエンパワーメントすることによってコミュニティ協働を促すこと、学校のシステムに対するアドボカシ―(代弁、支援活動)を進めていくことの重要性、これらに基づいた学校における具体的な取り組みを説明していただきました。
学校の中で子どもたちを支える上で、コミュニティアプローチを学ぶことは学校心理士の実践の振り返りになり、新たな視点を得ることを実感いたしました。
東京支部の皆さんにとっても学校心理士の役割を再確認できる、大きな意味をもった講演であったと思います。

 

 

 

 

 

平成25年10月19日
「子どもの成長を支える連携 ―コミュニティ・アプローチの実際―」
沢崎 俊之先生( 埼玉大学教育学部 教授)
会場 林野会館 14:00〜16:00

 

沢崎先生は、研修会の始まりを参加者対象のワークから行われました。
和やかな雰囲気を作られてから、コミュニティ・ アプローチのキーワードとして、子どもの成長には「生涯発達」「アサーション」、 連携では「学校・家庭・地域」「学校を核としたコミュニティづくり」「生涯学習」を示されました。
そして、子どもの成長には「子どもの成長をとらえる視点」が求められるとの指摘から「生涯発達」「自他尊重」という観点を示されました。
また、「環境のなかの子ども/大人の役割」として、家庭・学校・地域に目を向けること、学校を核としたコミュニティづくりが重要であることを述べられました。
具体的な事例として、A地区B小学校PTA・学校地域応援団の「子どもを犯罪から守るまちづくり」活動の紹介をしていただきました。
その他の実践として、「児童虐待予防全国地域活動連絡協議会『心のつぶやき』」や「中学生生徒会交流サミット」などもお話しいただきま した。
このような活動の中から、開発的・予防的カウンセリングのひとつとしてのアサーション・トレーニングの学校教育への導入に関する研究に取り組んでこられた先生のお考えを学ぶことができました。
そして、アサーションの定義は「自分の考え、欲求、気持、気分などを正直に、率直に、その場の状況にあった適切な方法で述べること」であり、「相互交流の中でお互いの変化や歩み寄りのプロセスを重視すること、『心の通う人間関係を築く』というのは、『ゴール』ではなく、その時、その時で、変化しつつ築 き続けるものである」と示されています。 (2013-2 心とからだの健康9 私の提言)
コミュニティ・アプローチにおける具体性と方向性を学ぶ研修会となりました。

 

 

 

 

 

平成25年6月1日
「学校におけるコミュニティ・アプロー チ ―基本的考え方とその応用―」
久田 満先生(上智大学総合人間科学部心理学科教授)
会場 林野会館 14:00〜16:00

 

久田先生は、まず「コミュニティ」の概念定義、「コミュニティ心理学」の基本理念についての説明をしてくださいました。
そして、19世紀の公衆衛生運動などを例に挙げながら、予防的対応の利点について述べられました。地域へのアプローチとしての一次予防では、「地域の精神保健センターにおける両親学級」「子育て支援事業」など、二次予防では「乳幼児に対する集団検診」「健康診断時のメンタルヘルスチェック」など、三次予防では「病院と家庭との間の橋渡しとなる場の確保」「セルフヘルプグループなどの自助活動」などがあり、予防プログラムの実施が重要であることを指摘されました。
さらに「危機理論と危機介入」の課題にも触れ、「危機状態」とは「個人だけでなく、家族や集団、組織(学校、企業など)、地域社会などのシステムとしてのコミュニティにおいても同様」であり「安定した習慣、平衡状態を打ち破ることは、不安を伴い危険でもあるが、新しい対処方式、問題解決方法を取り入れて新しい発展を促すことが可能となる」と述べられ、「成長促進可能性(growth promoting potential)」の観点も示されました。
そして、「コンサルテーション」についてはコミュニティ心理学では重要な鍵概念であることを示され、カウンセリングとの相違点などについてもご説明いただきました。
最後に、「コミュニティ・アプローチの発想」として、「待つ姿勢(waitingmode)から探求する姿勢(seeking-mode)へ」と述べられ、「援助は、それを探し求めている人々に対してだけでなく、最も必要としている人々に利用できるものでなければならないと」述べられました。
学校心理士の取り組むべき方向性を示す講演をしていただきました。

 

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